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炎桜/えんおう
脳性麻痺のボッボぼくのタッタ体験的小説ブログです。
「灰2」
2011.01.07 Friday | 08:15
JUGEMテーマ:小説/詩
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プロローグ2
いくら何でも、今日の主役の一人が来ないなんて事は無いだろうが、社会のマナーとして、ましてや、こういう大事な式典なのだから、せめて、五分くらい前には来ないといけないような気もするのだが.....
□そう思っていた時に彼がやって来た。僕は彼が隣の席に座ったら、社会のマナーとかを教えようと思っていた。けど、そんな考えは彼を一目見た時、消えてしまっていた。何故、消えたのか?彼の障害の程度は僕と同じくらいであるのは分る。脳性麻痺独特のよろけそうな動きであるけど、車椅子にも乗っていないし、クラッチという松葉杖みたいなものも使っていないからだ。それにも関わらず、彼に何も言えなくなったのは、彼の雰囲気だった。
□僕は、養護学校出身だし、ぽのすも障害者中心の職場なので色々な障害者と会ったりしているが、彼、灰野誠一は、僕が今まで会った障害者のどこにも属していない感じを持っていた。喋った事も無い、しかも、一目見ただけで、そういうものを彼から感じ取ったというのは、明らかに変な事である。その事は正直、僕自身も信じられなかった。
□同じ障害者にこんな事を言うのは、もしかたら失礼かも知れないけど、それ
を分かった上で言ってしまうと、彼の雰囲気はまるで、コウモリだった。
明らかにこんな表現を使うのは間違っているかも知れないし、奇妙なような気もする。でも、実際、僕が彼に感じたのはコウモリのようなものだったから仕方がない。
□毎日、太陽が沈む頃になると、どこからともなく現われる獣のような、鳥のような、薄気味悪い、あのコウモリだ。彼をこういう風に表現するのは、彼に対する侮辱かも知れないが、僕が彼に感じたものは、コウモリのような、薄気味悪いものだった。
□周りの人達は、彼から発しているその薄気味悪い何かを感じ取れないのか、彼を見ても只、僕と同じように接していた。しかし、僕自身としては、彼との扱いを区別して欲しかったような気が、一瞬だけど感じた。でも、すぐにその考えを打ち消した。
□何故なら、その考えは、彼に対する差別だったからだ。少しの間だけでも彼を、差別をした事に僕は自分が恥ずかしくなった。
それで、彼が隣に座った時に僕は彼に、イジメっ子が先生に注意をされ、イジメられた子に仕方なく謝るかのように喋りかけた。
□「あ、ボッ僕、白井直也って言います、今日は、イッイッ一緒に頑張ろうね」
そう僕が言うと、彼は驚いたように急に僕の顔を見た。しかし、すぐに何事も無かったように、僕よりは少し吃るくらいの感じで僕に言った。
「ああ、そっそうだね」
□素っ気無くそう言ってから、携帯をポケットから取り出して、いじり始めた。多分、メール確認だろうと思ったのだが、あまりにもルールから外れているような気がしたので、僕はこう言った。
「メールも、ダッダッ大事だけど、イッイッ今は、授賞式なんだから」
そう言うと、彼はすぐに、うっとうしそうにこう答えた。
「めっめっメールじゃねえよ、ゲームだよ」
ゲーム?ゲームをやっていたのか?最初、僕は母親にでも、メールを送っていたものだとばかり思っていたので、それならば、ある意味仕方ないと感じていたのだが、ゲームと聞いたら声を張り上げて、ゲームなんかしてんじゃねえ、こんな大事な授賞式の日に、と言おうと思った矢先に、マイクを持った司会の温水先生が、黒板の前に立ちこう言った。
□「えー、これから、第六回、永年勤続者表彰式を行います」
温水先生のその声に、さっき感じていた彼の不満感が消え、代わりに、緊張感が自分自身に現われて来た。緊張している自分とは正反対に、隣の彼は携帯でゲームこそしていなかったが、リラックスをしているように感じられた。彼は、椅子にゆったりと自分の背を預けていたからだ。僕はといえば、この表彰式を支援している、障害者雇用推進協会という会の会長でもある、ぽのすの社長の挨拶や、僕の町の町長や職安の所長の祝辞も耳に入らなかったくらいに緊張していた。けど、温水先生の受賞者紹介の時に、自分の名前が呼ばれた瞬間に、その緊張は少しは溶けた。だが、自分はそれから、すべき事があったのに、すぐに、そこから動かなかった。やがて、もう一度温水先生の声が聞こえた。
□名前を呼ばれて、ハッとした。そうだ、僕は表彰状を貰うんだ。急いで、協会の会長でもある社長が待つ表彰台に向かった。社長は表彰状を僕に手渡した時、小さい声で、だけど、優しくこう言った。
「おめでとう。これからも頑張れな」
そう声を掛けてくれ、嬉しくて、涙が出そうだった。でも、実際は、出なかった、白けてしまったからだ。つまらなそうに表彰状を受け取って、興味無さそうに席に戻るまでの彼、灰野君を見たからだ。何て、つまらなそうにしてるんだろう。
続く
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