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炎桜/えんおう

脳性麻痺のボッボぼくのタッタ体験的小説ブログです。
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書き下ろし障害者ノベル「灰」
JUGEMテーマ:小説/詩

プロローグ1
◆僕が彼を初めて見たのは、今年の七月に行った永年勤続者表彰式の席上だった。この永年勤続者表彰式というのは、障害者が十年以上、会社に勤続した事を表彰するものだ。
 僕は、養護学校を卒業してすぐに今、勤めている「ぽのす」という、パン製造兼喫茶店に十年間勤めた事が評価されて、表彰される事になった。それを知ったうちの親はすごく喜んでくれて、めでたいからという理由で表彰式に行く直前にわざわざ、母が赤飯を炊いてくれたくらいで、僕自身はそういう事をされて、照れくさかったが、嬉しいと同時に浮かれていた。

そのような浮かれ気分で表彰式の舞台である、僕の母校でもある養護学校にバスで向かった。家の近くの停車場から、僕がバスの中に入ってくると、一番、後ろの席にいた小学生らしい子供、三人が僕の周囲を指差して、馬鹿にしたように笑っていた。

僕は、自分の周囲の何がおかしいんだか分らなかった。そういえば、こんな事はずっと前からあった。今までは特別に何も気にしなかったのだが.....とにかく、僕はそのまま空いている席を見つけて座った。 

停車場から養護学校までは十五分くらいだ。その間、ipodで音楽を聴こうとしたのが、彼らは僕の周囲をまだ笑っていて、何だか分らないけど、その中の一人が耳が痛いのか、耳にヘッドホンを入れるような真似事みたいな事をしていた。それが何だか、痛々しそうであるんだけど、他の二人はそれを心配するどころか、笑っている。
そんな光景があまりにも気持悪くて、ipodから流れて来る音楽が耳に入らなかった。

バスが養護学校に着く頃には、バスに酔った事が無い僕が、気分的に酔ったようになっていた。降りてからバスをチラッと見ると、彼らは僕を見て手を振っていた。

それを見た僕は、原因は分らないけど、より一層の気持悪さを感じて、吐き気がした。それでも、養護学校の玄関に入る頃には、その吐き気はきれいに無くなっていた。
□玄関に入ってすぐに表彰式の受付がやっていた。受付には僕の高校三年の時の担任である温水先生もいた。
彼がここでまだ、先生をやっているとは知らなかった。てっきり、もう転勤したものかと思っていたので、内心すごく驚いて、只、ボッーとしている僕に気付き、先生は肩を優しく叩きながら

「おお、直也!久し振りじゃないか。先生は嬉しいぞ、俺の教え子が表彰されて」
先生にそう言われて、僕は何か言おうとしたけど、嬉しくて何も言えなかった。

本当は色々と言いたい事がたくさんあるのに。それを知ってか知らずか先生は続けて、
「いやあ、俺は、本当に嬉しいぞ、ああ、そうそう、司会も俺だからな」
「アッ、ソッそうなんですか」
「ああ、お前の晴れ舞台をしっかりと見てやるからな」
「アッアッありがとうございます」
「それでな、式が終わったら、色々と話したい事あるし、後で、俺んとこ来い」
「ハッハッハッはい、ワッ分りました」

それから、受付を終えた僕は、表彰式の式場であるニ階の会議室に向かった。
会議室に入ると入り口近くの席で、僕が勤めているぽのすの社長は誰かと喋っていた。何か、喋れなければいけない。そう思って言葉を絞り出すように叫ぶように「アッあの!シャ社長!今日は、ボッボッ僕なんかお招き」
ここまで言ったが、社長は僕の顔を一瞬だけ見て

「あっちだ、あっちに座って、待ってろ、ほら、お前の名前があそこに、大きく書いてあるだろ?」 
そんな風に言われれば、その後は何を言ったらいいか分らず、すぐに社長が指で示した席に着いた。

確かに、自分の名前、白井直也の字が大きく書いてある紙が、窓際の席に貼ってあった。急いで、その席に座ろうとした。ふと、僕の隣の席を見ると、その席にも同じく名前が書かれてあった。『灰野誠一』と。その名前を確認するまではてっきり、僕だけが受賞できるものかと思っていたので、半分は残念に思った。
もう半分は、こんなすごい賞を独り占め出来る事によって、今後、ぽのすで注目を浴びるプレッシャーみたいなものを感じて、余計、働き辛くなるかも知れないとも思っていた。

なので、僕一人が受賞をしなくて良かったと安心した。
しかし、表彰式が始まるまで五分前なのに、まだ、彼は来ていないようだった。

続く
鈴木豪 | ノベル | comments(1) | -
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「灰2」
JUGEMテーマ:小説/詩

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プロローグ2
いくら何でも、今日の主役の一人が来ないなんて事は無いだろうが、社会のマナーとして、ましてや、こういう大事な式典なのだから、せめて、五分くらい前には来ないといけないような気もするのだが.....

そう思っていた時に彼がやって来た。僕は彼が隣の席に座ったら、社会のマナーとかを教えようと思っていた。けど、そんな考えは彼を一目見た時、消えてしまっていた。何故、消えたのか?彼の障害の程度は僕と同じくらいであるのは分る。脳性麻痺独特のよろけそうな動きであるけど、車椅子にも乗っていないし、クラッチという松葉杖みたいなものも使っていないからだ。それにも関わらず、彼に何も言えなくなったのは、彼の雰囲気だった。

僕は、養護学校出身だし、ぽのすも障害者中心の職場なので色々な障害者と会ったりしているが、彼、灰野誠一は、僕が今まで会った障害者のどこにも属していない感じを持っていた。喋った事も無い、しかも、一目見ただけで、そういうものを彼から感じ取ったというのは、明らかに変な事である。その事は正直、僕自身も信じられなかった。

同じ障害者にこんな事を言うのは、もしかたら失礼かも知れないけど、それ
を分かった上で言ってしまうと、彼の雰囲気はまるで、コウモリだった。
明らかにこんな表現を使うのは間違っているかも知れないし、奇妙なような気もする。でも、実際、僕が彼に感じたのはコウモリのようなものだったから仕方がない。

毎日、太陽が沈む頃になると、どこからともなく現われる獣のような、鳥のような、薄気味悪い、あのコウモリだ。彼をこういう風に表現するのは、彼に対する侮辱かも知れないが、僕が彼に感じたものは、コウモリのような、薄気味悪いものだった。
周りの人達は、彼から発しているその薄気味悪い何かを感じ取れないのか、彼を見ても只、僕と同じように接していた。しかし、僕自身としては、彼との扱いを区別して欲しかったような気が、一瞬だけど感じた。でも、すぐにその考えを打ち消した。

何故なら、その考えは、彼に対する差別だったからだ。少しの間だけでも彼を、差別をした事に僕は自分が恥ずかしくなった。
それで、彼が隣に座った時に僕は彼に、イジメっ子が先生に注意をされ、イジメられた子に仕方なく謝るかのように喋りかけた。
「あ、ボッ僕、白井直也って言います、今日は、イッイッ一緒に頑張ろうね」
そう僕が言うと、彼は驚いたように急に僕の顔を見た。しかし、すぐに何事も無かったように、僕よりは少し吃るくらいの感じで僕に言った。
「ああ、そっそうだね」

素っ気無くそう言ってから、携帯をポケットから取り出して、いじり始めた。多分、メール確認だろうと思ったのだが、あまりにもルールから外れているような気がしたので、僕はこう言った。
「メールも、ダッダッ大事だけど、イッイッ今は、授賞式なんだから」
そう言うと、彼はすぐに、うっとうしそうにこう答えた。
「めっめっメールじゃねえよ、ゲームだよ」
ゲーム?ゲームをやっていたのか?最初、僕は母親にでも、メールを送っていたものだとばかり思っていたので、それならば、ある意味仕方ないと感じていたのだが、ゲームと聞いたら声を張り上げて、ゲームなんかしてんじゃねえ、こんな大事な授賞式の日に、と言おうと思った矢先に、マイクを持った司会の温水先生が、黒板の前に立ちこう言った。

「えー、これから、第六回、永年勤続者表彰式を行います」
温水先生のその声に、さっき感じていた彼の不満感が消え、代わりに、緊張感が自分自身に現われて来た。緊張している自分とは正反対に、隣の彼は携帯でゲームこそしていなかったが、リラックスをしているように感じられた。彼は、椅子にゆったりと自分の背を預けていたからだ。僕はといえば、この表彰式を支援している、障害者雇用推進協会という会の会長でもある、ぽのすの社長の挨拶や、僕の町の町長や職安の所長の祝辞も耳に入らなかったくらいに緊張していた。けど、温水先生の受賞者紹介の時に、自分の名前が呼ばれた瞬間に、その緊張は少しは溶けた。だが、自分はそれから、すべき事があったのに、すぐに、そこから動かなかった。やがて、もう一度温水先生の声が聞こえた。

名前を呼ばれて、ハッとした。そうだ、僕は表彰状を貰うんだ。急いで、協会の会長でもある社長が待つ表彰台に向かった。社長は表彰状を僕に手渡した時、小さい声で、だけど、優しくこう言った。
「おめでとう。これからも頑張れな」
そう声を掛けてくれ、嬉しくて、涙が出そうだった。でも、実際は、出なかった、白けてしまったからだ。つまらなそうに表彰状を受け取って、興味無さそうに席に戻るまでの彼、灰野君を見たからだ。何て、つまらなそうにしてるんだろう。
続く
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鈴木豪 | ノベル | comments(2) | -
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